科学的オーロラガイド in スウェーデンへようこそ!

キルナ上空のオーロラ/2012年4月12日撮影/撮影者:Johan Arvelius

オーロラまたは極光(polar lights)は、多くの人々を魅了する自然現象の一つですが、地球上では基本的には南北の両極域に限られて見られるものです。故に、オーロラは日本語では、「極域で見られる光=極光」と称されることがあります。

オーロラはラテン語でまたは夜明けを意味し、昔のローマ神話やラテン詩文学において「曙光(しょうこう)の女神(=オーロラ)」として記されています。従って、極光を、
北半球では、Aurora Barealis(ラテン語)/Northern lights(英語)/北極光(日本語)、
南半球では、Aurora Australis(ラテン語)/Southern lights(英語)/南極光(日本語)
とも言います。

概観

¶ Overview

現在、太陽活動周期(現在第24周期)は活動減少期に向かっていて、従って、オーロラを見ることは難しいのでは?と問われていますが、そんなことはありません!オーロラ帯(Auroral Zone)においては、天気さえ良ければいつでもオーロラが見られます

下図は、オーロラ帯(Auroral Zone)オーロラオーヴァル(aurora(l) oval)の違いを示しています。オーロラ帯とは統計的に頻繁にオーロラが見られるところであり、オーロラオーヴァルはスナップショット的なオーロラの全体像のことで、宇宙からでしか見られません。一般的にオーロラオーヴァルは、昼側では緯度方向に幅が狭くかつ高緯度に位置し、夜側では緯度方向に幅が広くなりますが、形状は時々刻々と変化します。図に示されているとおり、夜側のオーロラオーヴァルの緯度方向の幅は、平均してオーロラ帯に一致します。

スウェーデンにおいて、オーロラ帯の南限界(※ここより南では別な条件が整わないとオーロラが見られません)はウーメオ(Umeå、北緯63度)にあります。ただ、下図をもう一度注意深く見ていただければお分かりのとおり、18時(昼夜境界で図の左側)から21時(昼夜境界かつ図の左側から反時計廻りに45度)でのオーロラオーヴァルの(緯度方向の)幅は狭くなっていて、従って、この時間帯(18─21時)にウーメオはオーロラ帯(=天気が良ければ、ほぼいつもオーロラが見られる)には位置しません。一方、キルナ(Kiruna、北緯68度)はオーロラ帯の中央に位置しているために、ウーメオと違い、18時という時間帯から原理的にオーロラを見ることが出来ます

ところで、先述したように、夜側のオーロラオーヴァルの(緯度方向)幅は平均してオーロラ帯と一致しますが、オーロラオーヴァルは外的条件によって時々刻々とその形状を変化させます。例えば、磁気嵐という外的条件が加わる時、オーロラオーヴァルは緯度方向に規模が大きくなり、かつ緯度方向の幅が広がるために、磁気嵐の規模に応じて、ウーメオを越え、ストックホルム(Stockholm、北緯60度)や、さらにはマルメ(Malmö、北緯55度)あたりでもオーロラを見ることが出来ます。ただ、磁気嵐という外的条件は太陽活動に大いに関係しかつ依存するので非定常的なものであります。

より確実にオーロラを観測するためにどうしたらよいか?まずは、北極圏を越えてキルナに赴くことをおすすめします。そして、以下に提供するサービスの紹介をさせていただきます。

オーロラ帯とオーロラオーヴァル

ページ執筆者の専門について — 宇宙物理学とオーロラ

¶ MyExpertise

オーロラを見られるのは運次第」を「オーロラとは科学によって確実に見られるもの」にしませんか?なぜなら、オーロラに日常的に触れている者にとっては、オーロラに関して「運が良かった」のは、オーロラブレークアップに立ち会えたとかプロトンオーロラといった、「普通でない」オーロラを見られたという場合になるからです。

キルナ上空で見られた「普通の」オーロラ。
[左上] 窒素分子起源の青色と酸素原子起源の緑色による光線型のオーロラ。尚、青色感受性は個人差があり肉眼で見える人と見えない人がいます。
[右上] 輝度の高いオーロラ。裾のあたりは高度80km付近で、そこでのマジェンタ色はその高度の窒素分子によります。
[左下] 均質な緑色に染まった、カーテン状のオーロラ。
[右下] 赤色を帯びた多層型オーロラ。赤色は高高度の酸素原子によります。
プロトンオーロラ。2012年3月15日の20:07LT(現地時間)に撮影。典型的なプロトンオーロラは、特殊な条件下でかつ夜間のうちで早い時間帯(日没後の18-19 UT)でないと見られません。つまり、プロトンオーロラは非常に珍しいオーロラということになります。

下に示す動画は、キルナ上空で見られる「穏やかなオーロラ」の例です。現地時間で20─21時頃、北の方角の空を見上げると、この動画のような「風にゆれる、緑色に輝くカーテン」様のオーロラを多く目にすることがあります。


¶ AuroraGallery

オーロラ動画/撮影:2012年11月12日/場所:キルナ。Video(mp4) version.
オーロラ動画(非時系列)/撮影:2012年11月12日/場所:キルナ。Video(mp4) version.
オーロラ動画/撮影:2012年3月27日/場所:キルナ。Video(mp4) version.
オーロラ動画/撮影:2013年1月8日/場所:キルナ。Video(mp4) version.

このページ、科学的オーロラガイドの執筆者はアルヴェリウス幸子(さちこ)と申します。私は宇宙物理学で博士号(Ph.D. in Space Physics)を有する宇宙物理学者です。

アルヴェリウス幸子のプロファイル(英語)

私の元々の専門は、太陽─地球相互作用(Sun-Earth Interactions)という分野です。私達の地球は大きな棒磁石のようなもので、その磁石は磁気圏というものを形成しています。この磁気圏によって私達は、宇宙から飛来する荷電放射線(電気を帯びた粒子─電子とかイオン─から成る、非常にエネルギーの高い粒子線)から守られています。そして、私達にとって一番身近で一番大きな荷電放射線の源は、実は太陽なのです。太陽からやってくる荷電放射線(あるいは、宇宙プラズマまたは単にプラズマとも言います)が、どのように地球磁気圏に影響を与え、その影響に対して磁気圏がどんな反応をするのか、それを研究するのが「太陽─地球相互作用」なのです。

オーロラの「素」となるものは、太陽からやってくるプラズマの流れ、太陽風です。太陽風はプラズマと太陽磁場から構成されています。太陽風が地球磁気圏に衝突することで、磁気圏を構成している地球磁場が反応し、その反応の一部が極域のオーロラという形になるのです。

太陽風とオーロラ(英語)

私の博士号論文のテーマは、地球起源プラズマである酸素原子イオン(O+)の、外部磁気圏における動力学と、エネルギー及び運動量の分布でした。この研究のために、ヨーロッパ宇宙機構(ESA)のThe Cluster-II Mission(クラスター・ミッション)の、科学衛星Cluster-IIに搭載されていたプラズマ検出装置で取得されたデータが使用されました。この研究によって、それまで予想もされていなかった、高高度かつ高緯度で非常に高いエネルギーをもつ酸素原子イオンが検出され、かつ、その性質の一端が明らかにされ、その性質が「太陽─地球相互作用および結合」を明らかになりました

アルヴェリウス幸子の博士号論文(英語)

オーロラの「予想」と「予報」

オーロラガイドを科学的に行う上で予想予報の2つがあります。これらは互いに違うものであり、従って、まずはそのことを以下に説明させて頂きます。

オーロラ予想とは、(1)太陽風に関するデータや太陽表面で起こっている事象の精査と分析に始まり、続いて、(2)太陽風などの太陽の影響が地球磁気圏にどのような影響を与えるか、という「地球規模=グローバルな見地」での分析を行い、そして、最終的に(3)「地球規模」でオーロラが発現するかどうかを提言するプロセスであります。お分かりの通り、このプロセスはあくまでグローバルなレベルのものを対象としているので、オーロラを見たい場所でのオーロラの出現の有無(ローカルレベルの事象)までは踏み込んでいません。そもそも、基となるデータだけではローカルレベルの事象を論じることは出来ません。故に、(地球規模で)オーロラが出るかどうかの「予想」となるわけです。

一方、オーロラ予報とは、オーロラを見たい場所での関連するデータ(現時点では地磁場データ。将来的には局所地磁場をシミュレートできるモデルとその計算結果を実際の地磁場データと比較)に集中し、地磁場の成分と強度とオーロラの出方の相関という統計も使って、いつ、どこに(どの方向に)、オーロラが出るかを算出することです。

オーロラ予想=地球規模で、オーロラが発現するかどうか、を提言すること。
オーロラ予報=オーロラを見たい場所で、いつ、どこに(どの方向に)オーロラが出るか、を算出すること。

オーロラ「予想」

¶ AuroraExpectation

オーロラの予想は、オーロラを観る「3日前」を仮想して行います。

(1) 太陽風データとともに、太陽表面の現象(フレアやそれに伴うコロナ質量放出(coronal mass ejection, CME))、さらには、太陽─地球間で形成されるCIR(co-rotating interaction regions)に関するデータの収集を行います。

(2) これらのデータを基に、今後3日間の、地球規模でのオーロラ発現を予想します。

CIRとは?— 太陽風を吹き出す太陽は、芝生に撒水する撒水口回転型のスプリンクラーのようなものと考えられます(下図参照)。ただ、スプリンクラーが決まった撒水口から一定量撒水するのと異なり、太陽はほぼ連続的に一定しない太陽風を吹き出します。従って、量の違う=プラズマ密度の違う太陽風になるとともに、速い/遅い太陽風も吹き出してきます。
「遅い」太陽風が吹き出し後に「速い」太陽風が吹き出すと、速い太陽風が遅い太陽風に追いついて、遅い太陽風のスピードを上げることがあります。こうしてスピードが上がった、元々遅い太陽風(の領域)をCIRと呼びます。

何故「3日間」?— 太陽表面は一定ではなく、常に変化しています。特に、太陽活動極大期と呼ばれる期間、皆さんは多くの黒点が太陽表面に現れるのをご存知でしょう。黒点とは実際、太陽表面活動が非常に激しく、従って、ここで多くのフレアコロナ質量放出(CME)が発生します。
今この瞬間、太陽表面でコロナ質量放出(CME)を伴うフレア(爆発)が起こったというシグナルを受けたとしましょう。エックス線・ガンマ線をはじめ、紫外線や電波といった電磁波(=光)は、爆発直後8分後には地球に到達します。一方、コロナ質量放出の中身であるプラズマ粒子は、光速で移動することはできないので、地球到達までにあるまとまったタイムラグが生じることになります。例えば、コロナ質量放出の速度が900 km/s(毎秒900キロ)と仮定した場合、これが地球に到達するまでに約46時間(約2日弱)を要することになります。
コロナ質量放出は常に太陽磁場を伴っているために、地球到達と同時に太陽風プラズマと太陽磁場が一緒になって地球磁気圏の磁場(=地磁場)を「揺さぶり」ます。太陽磁場と直接、もしくは近いところで接触した地磁場は「即」揺さぶられますが、遠いところにある地磁場(例えば、地球の夜側に位置しているもの)は、揺さぶられるまでに時間がかかります。従って、地球のある局所においては、太陽風の揺さぶり効果はある程度時間が経ってから出てくることになります。そういう理由で、地球規模のオーロラ出現予想では「3日間」という時間の猶予が必要となります。

オーロラ「予報」

¶ AuroraForecast

活動的なオーロラの、「直接」原因となる磁気嵐(=非常に大きな地磁場の擾乱)に関して、理論的に、急始の「9─12時間前」の予測が可能であることが最近の研究で分かり始めています。

何故「9─12時間前」?— 磁気嵐の前駆体としてのミュー粒子(μ、自然界では二次宇宙線として存在することが多いです)に関する最近の研究(M. Rockenbach et al., "Global Muon Detector Network Used for Space Weather Applications", Space Sci. Rev. (2014) 182:1-18)によると、太陽磁場と地磁場の相互作用(=コロナ質量放出に伴う太陽磁場が地球磁気圏にぶつかる)によって変動する宇宙線(ここでは、ミュー粒子)は、磁気嵐急始の9─12時間前に先立つ前駆体となりうることが明らかになってきています。
ただ、この研究の中心である「ミュー粒子望遠鏡」(宇宙線を地上から観測します)のデータは、まだリアルタイム公開にはなっていないために現時点では、リアルタイムでのオーロラ予測のツールとして使うことが出来ません。将来的には、(コロナ質量放出に伴う)太陽磁場と(地球規模→局所レベルの階層構造をもつ)地磁場の結合モデルを用意しておき、リアルタイムでのデータ公開に合わせて、シミュレーションによって9─12時間前に、オーロラ「予報」が行えるようになりたいと思っています。
尚、ミュー粒子望遠鏡(正確には、Global Muon Detector Network)とその研究に関しては、信州大学理学部宇宙線実験研究室—「ミューオン(ミュー粒子)計によるネットワーク観測:GMDN」をご覧になることをおすすめします。

従って、現在可能なオーロラ予報の「手法」は次の通りです。

(1) 過去の地磁場データと、オーロライメージを基にしたケオグラム(Keogram)のデータの統計的分析がベースとなります。過去の、地磁場(の各成分。普通は「北向き」「東向き」「下向き」の3成分となります)の擾乱のパターンと、その時のケオグラムから読み取れるオーロライメージの輝度と出現位置(緯度)との相関を定量的に解析し「地磁場擾乱ーオーロラ出現の相関関係」として数値化(データベース化)しておきます。これにより、実際の地磁場の擾乱状態をモニターしながら、データベースと比較してオーロラがどの辺り(どの方角)に出そうか?を予想します。

ケオグラムとは?— 下図に示すように、同一時刻に撮影された全天オーロライメージを緯度方向(サンプルの場合は下が「北」)に並べ替えて(これを「縦軸」とします)、それを時間経過ととも(「横軸」方向)に並べていったものです。

(2) 次に、地磁場の時間変化からいつ、オーロラが出るか?を予想します。ただ、実は、これが一番「困難な」手続きであります。そもそも、地磁場の時間変化には決まったパターンというものはなく、上記した太陽磁場(地磁場擾乱の主要な外的要因)・地磁場の結合モデルで、地磁場の時間変化をシミュレートして予想するしかありません。現在、太陽風・外部磁気圏の結合モデルは存在します。しかし、磁気圏の「外部」と「内部」では少し様子が異なり、さらには、地上付近の磁場(=地磁場)と内部磁気圏の様子も異なるために、「太陽風・外部磁気圏の結合モデル」は、ここで行いたい、オーロラを観たい場所での、地磁場の時間変化のシミュレーションに適していません。従って、現時点では過去の地磁場データから似たようなデータ(=パターン)をみつけてくるという経験的手法に頼っている状況です。

その他の現状
1. オーロラ活動は地磁場の擾乱と強い相関をもつ。これは明らかな事実なので、オーロラ「予報」の手続き(1)(どの方角にオーロラが出るか?)は高い精度で行えます。
2. いつ、オーロラが出るか?は、暫くは専門家としての「経験」を基に予測を行いますが、局所地磁場擾乱をシミュレートするモデル開発のための予備調査は始めています。
3. 文脈中の「地磁場データ」を提供する地磁気計測器(magnetometer)(または地磁気計測所)は、スウェーデンには2箇所しかありません。一つはキルナ(Kiruna)、もう一ヶ所はリュクセレ(Lycksele)です。リュクセレもスウェーデン北部に位置していますが、ケオグラムを作るための全天オーロライメージングは行われていません。従って、スウェーデン国内で「科学的オーロラガイド」が行えるのは、キルナ・アビスコ(Abisko)・イェリヴァレ(Gällivare)の限られた地域だけとなります
4. 幸い、キルナは先述したとおりオーロラ帯の真ん中に位置するので、夏季(5月─8月)と悪天候時を除いては、大体毎晩オーロラが見られます。さらに、キルナの地磁場データは、18UT(universal time)付近21UT付近で、頻繁に凸状のピークもしくは凹状の落ち込みを示します。その場合、例外なく輝度の強いオーロラが見えていますが、このことは、キルナにおいては、割合決まった時間にオーロラが見られることを示唆しています。スウェーデン冬時間(10月最終週~3月最終週)では、「18UT=夜7時」、「21UT=夜10時」となっています。

現地におけるオーロラガイド

¶ LocalAuroraGuide

現地(キルナ、アビスコ、イェリヴァレのいずれか)において、オーロラガイドも行います。内容は以下の通りです。

(1) 日中(10時から18時の間)の都合の良い時に1時間程度、オーロラについての簡単なレクチャー(イントロダクション)とオーロラ発生装置(下の写真を参照)を用いたオーロラオーヴァルの形成を体験していただきます。

(2) オーロラ観測は原則18時から始めますが、その前に、写真撮影を行われる方のために、希望される場合、基礎的なセッティングやチェックに立ち合わせていただきます。また、オーロラ観測前にベストロケーションの選定(と、場合によっては移動)も行う予定です。観測時間帯は18時から0時、そのうち、コアの観測時間は2時間程度とさせていただきます。

写真は、宮崎県五ヶ瀬町の五ヶ瀬中等教育学校にある「オーロラ発生装置」。これと同じものがキルナのRymdgymnasiet(リムドジムナジエット)にもあります。この装置を用いて、オーロラオーヴァルの形成オーロラの色についての説明を行う予定です。